毎年中国のPM2.5問題が報じられますが、その原因は何でしょうか。中国で取材してみると意外にも民家にある○○が原因の一つでした。PM2.5告発動画を検証し、大気汚染の実態と対策に迫ります。実はとても怖いPM2.5とは?
PM2.5告発ドキュメンタリー「穹頂之下」
2015年春節(旧正月)のさなかの2月28日、中国全土を揺るがすドキュメンタリー動画が発表されました。その名は「穹頂之下」(天空のもとで)。
作成したのは、中央電視台記者だった柴静さん。彼女が出産した子供に良性腫瘍が見つかったことから、中国の大気汚染問題について自ら調べ上げた渾身のドキュメンタリー動画です。
2時間弱の長編ドキュメンタリーですが、彼女のリズム良い喋りとはっきりとした説明により時間を忘れてしまうほど引き付けられる、良いドキュメンタリーです。(後に彼女の後ろに政治勢力が関係していたとか、アメリカで子供を出産したことに関する疑問などが市民の間で持ち上がりましたがそれは置いておくとしましょう)
内容は、今まで中国の誰もが疑問に思いながらもはっきりとした答えが得られなかったPM2.5に関する問いに見事に答えていくというもの。その中で中国PM2.5の原因についても鋭く切り込んでいました。
著者は当時中国にいましたが、友達や街で会う市民のほとんどがこの番組の話題で持ちきりでした。実は知らなかったPM2.5の脅威についてこの動画を元に検証しましょう。
中国のPM2.5とは何か?
PM2.5は大きさの単位で実際には「大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径が概ね2.5μm以下のもの。」と定義できます。一般的にはどの国でもPM2.5と呼んでいるようです。中国では雾霾(ウーマイ)と呼ばれています。
PM2.5が体に悪い理由はなんでしょうか。簡単に説明しましょう。
PM2.5は容易に大気中の有害物質と結合します。さらに非常に小さい微粒子のため、呼吸と共に肺の末端まで到達してしまいます。つまり肺の奥底に有害物質を運ぶという訳です。さらに肺から血管に入り血液にのって体中に流れます。結果として体全体に有害物質をいきわたらせてしまうのです。
実際に空気中のPM2.5にはどんな物質が含まれているのでしょうか。
番組が行った実験によると、最も多かったのはベンゾピレンという物質です。実はこの物質は地球上で最も発がん性が高いと言われている物質です。中国で測定したところ、その値は基準の14倍となりました。
つまりPM2.5は体に発がん性物質を行きわたらせる助けをする有害物質と言うことが出来ます。
動画の中ではPM2.5が体内に侵入し、どのように人の体をむしばんでいくかがアニメで説明されました。実際にこれが自分の体で起こっているのかと思うと、恐怖を感じるアニメでした。
その中では、PM2.5が心臓にも悪影響を及ぼすことが取り上げられ、危険性が指摘されています。番組の取材で。タバコを吸わない患者の肺の手術に同行したところ、肺の中に真っ黒なリンパ球が見つかりました。市民の中にも肺がんや心臓の病気で命を落とす人が多いようです。
ところが、中国のPM2.5は決してよくなりません。
番組内で柴静さんが子どもにインタビューしています。
「星を見たことはある?」
「ないよ」
「青い色をした空を見たことはある?」
「少しだけ」
「白い雲を見たことある?」
「ないよ」
実際に筆者が北京に滞在していると1週間のうち4日はどんよりとしたスモッグ、3日はなんとか空が見えるといった感じでした。なぜ大気汚染は良くならないのか。PM2.5の原因は何なのでしょうか?
中国のPM2.5の原因は?
前置きが長くなりましたが、本題の中国のPM2.5の原因について3つを取り上げましょう。
工場や発電所
主な原因は、工場や発電所から排出される汚染物質です。中国各地の工場や発電所では石炭を燃やしてエネルギーを作っています。そのエネルギーで銅や鉄を生み出しています。
石炭を燃やすと二酸化炭素に加え、硫黄酸化物、窒素酸化物など様々な汚染物質が排出され、煤塵(ばいじん)も大量に出ます。中国の石炭は低品質なため、汚染物質を大量に出します。
日本ではそうした汚染物質をほぼすべて除去したクリーンなものしか出しませんが、中国ではそのまま大気中に排出しているようです。
特に深刻なのが河北や山西といった工業地帯です。これらの地域では「白い雲を見たことが無い」と言う子どもがいるくらい深刻な大気汚染になっています。
1つの地域に大量の工業と重工業が密集し、石炭を大量消費し有害物質を排出している結果、大気中のPM2.5の濃度が上がり続けているようです。
ではそれをなぜ取り締まらないのか。
番組のインタビューの中で鉄鋼会社の担当者が述べた言葉がこちらです。
「鉄鋼会社の60%は検査なんか受けたことが無い。状況を悪化させているのは違法登録の人たちだ。でも取り締まることはできないだろう。10万人の雇用を生み出しているからね。」
中国内陸では「環境設備は検査の時だけ動かすもの」という経営者も少なくないようです。環境に対する意識が変わらない限り、青い空を見上げるのは難しいでしょう。
自動車の排気ガス
もうひとつの原因は自動車の排気ガスです。中国の自動車保有台数の伸びは近年顕著にみられており、02年に325万台だった中国の自動車販売台数は12年には1930万台に達しました。10年で6倍もの増加と言えます。
急激な自動車台数の増加により、大都市を始め多くの都市で渋滞が慢性的に発生しています。
さらに、中国の鉄道輸送能力以上の物流を賄うため多くのトラックが中国内を行き交っています。その結果、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスが大気汚染の原因の一つとなっているようです。
またガソリンの質の問題も挙げられます。中国のガソリン品質の基準は、石油会社が儲けやすいように緩くなっています。そのため粗悪なガソリンを積んだ車が基準以上の排気ガスを出して走っているのです。
民家の暖房
最後に取り上げたいのは、民家の暖房です。中国の一般的な民家は暖房に練炭を使います。
家の外の小型焼却炉で練炭を燃やし、その熱をパイプを通して家の中に引きこむことにより暖を取っています。そのため家の前には練炭がずらりと並べられています。
この練炭は価格を抑えるため、非常に低品質のものを使用しています。冬季(11月15日~3月15日)は24時間つけっぱなしのため尋常ではない有害物質をまき散らしています。
PM2.5の原因を大きなものから順に取り上げましたが、さて中国の大気汚染が改善される日は来るのでしょうか。
PM2.5大気汚染の対策は?
PM2.5の大きな原因のひとつである石炭の使用量を抑えるためには、それに代わるエネルギー源が必要です。
現在中国は原子力発電など次世代エネルギーの開発に着手していますが、残念ながら供給が需要に追い付いていないのが実態です。
世界も驚く経済成長の波に中国のインフラが追い付いていないのです。そのため石炭に頼った産業を続けるしかないようです。
では成長のスピードを緩めればいいのでは?と思いますが中国にその気はないようです。中国を支えてきた論理は「成長がすべてを解決する」というもの。実際中国の市民からも「日本やイギリス・アメリカもかつてはこんな感じだっただろう。国力がついて来ればそのうち無くなっていく問題だよ。」という声も聞かれます。
現在の中国国民の関心事はとにかく豊かになること。健康的で文化的な暮らしを求めている人はまだまだ少数派です。そんな中国国民に一石を投じた今回のドキュメンタリーは中国を動かすきっかけとなるかもしれません。
中国の子どもたちが青い空の下で駆け回り、お母さんが子どもに「外では笑ってはいけないよ。空気を吸うといけないから」と言わずに済む日が1日も早く来ることを心から願います。
さて、そんな流暢なこともいっていられないのが、中国在住者や出張や転勤・旅行などで中国を訪れる方たちです。実際に私が中国で使っているPM2.5対策グッズをレビューしましたのでこちらのサイトも合わせて御覧ください。
http://thewave.asia/pm25mask/